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飯田和矢さんが握るすしを楽しむ香港からの訪日客=2025年2月2日午後、北海道倶知安町、上地兼太郎撮影
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 北海道の観光地・ニセコエリアで一人3万円の出張すし屋が人気だ。

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 春節期間中の2日夜、倶知安町のコンドミニアムで職人歴25年の飯田和矢さん(44)がすしを握っていた。

 この日振る舞ったのは、すし10貫、茶わん蒸しやキンキの焼き魚など6品で大人1人2万8800円のコース。店から食材や調理道具、器を持ち込み、コンドミニアムの台所で調理。出たゴミも持ち帰る。

 ニセコを訪れるのは3回目というビンセントさん(44)がトロをほおばった。日本酒「獺祭(だっさい)」を飲みつつ「おいしいです!」。大人10人と子ども6人で香港から7日間の日程で訪れた。「円安で値段もリーズナブル。安心して食事やサービスを楽しめる」と満足げだ。

 今冬、飯田さんが訪日客の滞在先に出向いて料理をするのは25回目。6年前から始め、延べ100回を超えた。

 両者は、ベンチャー企業「ジャパンパシフィックマネージメント」(JPM、大阪市)が手がける「SUSHI JAPAN」が仲介した。

 冬に客が殺到するニセコエリアでは、子連れや大人数になるほど、飲食店に入りづらい。新しく店を出そうにも、大きなもうけが見込めるのが冬の4カ月ほどに限られ、店舗や働き手が住む物件も乏しい。

 一方、積丹や岩内などニセコエリア以外の後志地域の飲食店は、夏の観光シーズンはウニ丼目当てに観光客でにぎわうが、オフシーズンは閑散とする。飯田さんも積丹町で料理旅館「なごみの宿 いい田」を営むが、冬は「夏の貯金を食いつぶしていた」と言う。

 そこでJPMは、ゆっくり食事を楽しみたい富裕層と、年間を通して売り上げを安定させたい店側をつなげることに商機を見いだした。

 グーグルなどのネット検索で上位に表示されるよう工夫したほか、海外にある日系の旅行会社にも売り込んでもらい、訪日客にアピール。2018年のサービス開始から昨冬までに、香港やシンガポール、マレーシアなど15の国・地域の約1千組が利用した。店側には、原価を除き支払額の2~3割が入るという。

 「最初のころは、こちらがすしを出そうとしたらピザを食べ始めたお客さんがいて驚いた」という飯田さん。「自店の厨房(ちゅうぼう)ではないので勝手が毎回違い、忘れ物などの失敗は許されず、料理人としてある意味、力がついた」。トロやサーモンなど脂が多いネタを好む訪日客に合わせつつ、「日本人が食べても満足する料理を出している」と胸を張る。

 JPMの冨田竜海社長(32)は「これからも地域の課題解決に役立ちたい」と意気込む。

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